不思議の国のブリ天(飯編)

テレビをつけたら、つい最近デビューの発表があったジャニーズのSnow Man目黒蓮さんがバタートーストに噛り付いていた。3センチはありそうな分厚い食パンに大きく「田」の字の切れ込みを入れ、バターを乗せて焼くと耳ギリギリにまで満遍なく溶けたバターが染み込んで、かつムラなくカリカリに焼けるのでとても美味とかなんとか。顔が綺麗な人間が食べているとより美味しそうに見えるよね〜と思いながら眺めていたのだが、そこでふと思い出した。イギリスでの食生活についてである。

 

私は去年の秋から今年の夏前くらいまでイングランド北西部に位置するランカスターという場所で生活していた。こういうことを言うとかなりの頻度でイギリスのご飯について聞かれるのだが、私は自炊をしていたのであっちで食べていたものはほとんど日本食だった。米、味噌汁、何らかの炒め物という定食スタイルが基本だったし(因みに魚は高いので食べなかった。サーモンなんかは物凄く薄っぺらくて小さいのに大体1000円以上したと思う。間違ってたらごめん)、まあ日本食でなくても、ほぼ全ての料理に醤油をぶち込んでいたので味は日本風だった。そういうわけで、食材を調達するためにスーパーにはよく行っていたし、スーパーほど国によって違いが出る場所はないなと感動したのを覚えている。具体的に何が違うのか?それは私が今日目黒蓮を見ていて思い出したことと関係しているのだが、まずパン文化が大きく異なる。

 

日本で食パンを買おうとするといくつか選択肢が与えられる。何枚切りか?バターはどれほど含まれているか?ごく普通の白か?レーズンは入れるか?サイズはノーマルか少し小さめか?こんなによりどりみどりでど〜しよぉ〜迷っちゃう〜と言いながら大抵いつも普通サイズ6枚切りの白を買うことが決まっているのだが、イギリスでは(アメリカでも割と。他の国は知らない)こうはいかない。イギリスで食パンを買う時に与えられる選択肢は①レーズン入りか?②どこのブランドか?

この2つだ。

個人的に一番辛かったのは何枚切りか選べなかったことである。日本では可愛らしい立方体がお好みの厚さに切られて何種類かちょこんと置かれているが、イギリスでは馬鹿デカい一斤が1センチあるかないかの極薄切りにされて放られている。元から切られていない状態ならば自分で切ることもできるから良いが、どこを探してもペラペラにスライスされた重たい上にかさばりまくる地獄の一斤しかないのだ。こんなんでどうバタートーストを作れというのか。正解は作らなければいいのである。お前は黙ってサンドウィッチでも作っとけという隠されたメッセージだ。イギリス人はこのようによく京都弁を話す。

勿論、パン屋さんに行けば切られていないものやもしくは厚さをリクエストすることも可能だろう。私はパン屋に行かなかった(今書きながら思い出したがパン屋には本当に一度も行かなかった。そもそもランカスターにちゃんとしたパン屋さんってあったっけ?牧草地しかなかった気がする)ので詳しいことは知らないし、ロンドンやマンチェスターなどの大きな街に行けば当たり前のようにあるのかもしれないが、少なくともランカスターのスーパーには置いていなかった。因みにランカスターにはSainsbury's、Tesco、Marks&Spencer、Central、Sparなどイギリスの有名スーパーは一通りあったがどこにも私の求める食パンは売っていなかった。肉はステーキ用の厚切りか挽肉か塊くらいしかないくせに何故食パンは薄切りしかないのだろうか。ベーコンや生ハムがあるのだから薄切りという概念はあるはずなのに、ちゃんとした薄切りの肉が欲しければアジアンスーパーマーケットで少し値の張るもの(しかもそれもなぜかくるくるに巻かれた状態で冷凍されているから使い勝手は死ぬほど悪い)を買わなければならないのは何故なのか。そして肉がこうなのに何故パンは厚切りがないのか。不思議で仕方がない。そもそも一斤なんて一人で食べられる量ではない。フラットメイトとシェアすればいいだけの話だが、シェアが嫌いな人間や一人暮らしの人間はどうしろというのか。正解は食うなということである。京都弁は難しい。

 

あとは味もそんなによろしくない。まず白い食パンを見かけない。大体健康に良さそうな茶色くてボソボソしたものかチョコレートが染み込んだものかレーズンが入ったものだ。イギリスの食パンにはしっとりふわふわなんて概念はない。ぱっさりぺらぺらだ。ぼっそりぼそぼそでも良いかもしれない。まあ結局はこれだけで食べずサンドウィッチとして何かしらの具材と一緒に食すことを想定しているのだろうし、もしそうだとしたらこれはこれで正解の形なのかもしれない。それでも私は美味しいバタートーストが食べたかった。

 

ここまで散々イギリススーパーの食パンをディスってきたので最後に良かった点も挙げておく。

イギリス(アメリカ)のスーパーには、必ず牛乳が3種類売っている。Skimmed, semi-skimmed, wholeだ。完全なる脱脂か、半分脱脂か、日本で言うところの一般的なものかの違いだが、これに関しては知っているという方も少なくないかもしれない。日本でも脱脂乳は売られているが、スーパーに行ってまず最初に目に入るのは確実にwholeだろう。しかしイギリスだと3種類が均等に、隣り合って並べられている。キャップの色も赤、緑、青と大体どこのブランドでも決まっているのでパッと見てすぐにわかる。これは余談だが、日常会話ではあまりskimmed milkやwhole milkと言わずキャップの色から取ってred milk、blue milkと言うらしい。知り合いのイギリス人が言っていただけなのでみんながそう言うかはわからないしアメリカではまた違うのかもしれない。

話が逸れたが、これに関して一体何が良いのかというと単純に楽しいということである。完全なる脱脂は白色の水といった感じなので正直私は最初は好きではなかったが、これが意外と紅茶やコーヒーと相性が良い。少しマイルドにしたいけど茶の味は残したいみたいな時あるじゃん。私はある。そういうときにred milkがちょうどいいのだ。はたまた普通にどろっとした牛乳が飲みたいときやお菓子を作ろうかななどと血迷ったときにはblue milkの出番である。しかしこの青ミルク、なんとなく日本の牛乳よりもトロトロ感が強いような気がする。個人的にはコップ一杯飲むのでも少しキツかった。そういうときに緑ミルクがちょうどいい。世の中には白黒ハッキリさせない方がいいことが結構ある。

 

私は文章を書くときにオチを決めずに書き始めてしまう悪癖がある。今回も話の落とし所がわからない。しかし言いたいことは取り敢えず言ったのでこの辺で締めようと思う。

次回、城之内死す。