伊東さんのイベントに参加して愛を知った話
【イベント前】
『ふたりきりオンライントークイベント』
タイトルからして嫌だった。何も間違ったことは言っていないが嫌だった。何故かと言うとめっちゃキモいので。
伊東さんと画面越しでお話ができるイベント。そんなもん参加したくないが応募しないのはそれも違う気がするのでフォトブックを購入して抽選に申し込んだ。そして当たった。イベントに当選したという事実そのものに対して喜んだところで私の中でのふたりきりオンライントークイベントは終了していたが、当たったなら本当に現場に行くしかない。試合はまだ終わっていない。当選通知はむしろ試合開始の合図なのだ。
そして地獄のイベント当日。気分はもうよくわからない。いっそ無だった。午前中は。「お話しするときはマスクしたままなのかな?」と友人に訊かれるまでは。(友人はこのイベントには参加しないが精神的に使い物にならない私の介護をしてくれていた)
結論から言うとイベント中はずっとマスクは着けたままだった。しかしイベント前の私はそれは緊張していたので、何か不安要素がひとつでもあるとそれだけでどうにかなってしまう恐れがあった。最悪の場合吐くかもしれない。
その時は新宿伊勢丹にいたので、1Fのコスメコーナーで色をのせてもらってから出陣しようという話になり、我々はTOM FORDに赴いた。戦には強い武器が必要だ。私は生憎弱そうな色のリップしか持っていなかったので、強そうな赤を試させてもらうことにした。
友人の助言にも耳を傾けつつ、これだ!という色を見つけ出す。これならば最悪でも片腕一本持ってかれるだけで済むだろうという色を。
私「あの、そしたらこの色ちょっと試してみてもいいですか?」
BAさん「申し訳ありません、感染予防ということで今はお試しいただくことができないんです…」
だよねー!!!!!!!
しかし私は諦めなかった。強い装備なしで推しと会話などできるわけがない。それならば一体どうするか。
私「じゃあこれ下さい」
買った。
決して安くはないデパコスを即買いなんて普段の私ならほぼ確実にしないことだが、その時の私は正気でなかったので買ってしまった。因みに後悔はしていない。Impassionedという若干オレンジがかった濃いめの赤色だが、強くも馴染みが良く、そして色持ちがいい。何か食べたり飲んだりしてもあまり色落ちしないので良い買い物をしたなと思う。これからちょっと高いものを買う時はイベント直前にしようと思った。
【イベント中】
会場に着くと検温と本人確認を済ませ、自分の整理番号が貼られた椅子に座った。
各部50名そこらの規模なので、そんなに狭くはないイベントホール内にきちんと等間隔に椅子が置かれ物理的には割と開放的な空間だったのだが、何故だかめちゃくちゃ暑い。暑いしジメジメしている。周りを見るとヲタク、ヲタク、ヲタク。当たり前だがヲタクしかいない。ヲタクは熱いしなんか湿っているのだ。
加えて壁中に伊東さんがビショビショになっているポスターが貼られているのも関係しているだろう。今回発売されたフォトブックの表紙なので仕方がないとは思うが、普通に目のやり場に困る。Sexy Zoneでビショビショの男の写真は見慣れているが、伊東さんはSexy Zoneじゃないしましてやアイドルでもない。声優というのはあくまで声を売る仕事だという(恐らく前時代的なのだろう)考えが私の中にあるので、いきなりそんなビショビショになられると困るのだ。まあ今回のフォトブックは5冊買いましたけど。閑話休題。
開始5分前になると、アナウンスが流れた。
スタッフさん「パーテーションの中に入っていただきますとモニターがあり、そちらを通して伊東さんとお話しいただきます。時間は大体30秒ほどで、中に入ってから出るまでは1分程度になります」
なっが………
30秒?長くない?
まあ時間と人数的に大体そんなものかなとは思っていたが、この間のお渡し会では7秒程度でも結構長く感じた気がする。その約4倍?沈黙で死にませんか?
しかし本当の恐怖はここからだった。
ついにイベントが始まり、1番の人から順番に地獄の半個室に入っていく。
ファン「私昔悪口を言われていたことがあって…」
どうしちゃったの???
詳しい内容は伏せるが、まあ平たく言うとそんな感じのことを言っていた。
うそでしょ?初っ端からそんな感じ?
結局は「でも伊東さんに元気を貰って立ち直れたので感謝を伝えたい」というようなコメントだったが、そんな会話が全部本当に一言一句筒抜けでマジ大丈夫かこれと思った。
ファン同士での会話は禁止なので会場内は水を打ったように静まり返っているし(途中から突然思い出したかのようにフリー素材的なミュージックが流れ始めた)、伊東さんは「あ〜それはそれは」みたいな返事をしているし更には「僕なんて個人名でバンバン悪口書かれまくってますからね」とか言い出すし、しかも結局会話は30秒どころか1分弱くらいできそうだし、私は体調の優れないお客様になってしまいました。
伊東さんの対応って決して優しくはないんだよね。何をもって優しい対応とするのかはわからないけど、例えば一生懸命に相槌を打ってくれるとか、気の利いた切り返しができるとか、そういうわかりやすい良対応はしない、というか恐らくできないのだと思う。でも真っ直ぐにファンのことを見てくれるし、時間が少し過ぎても次の人が来るまでは目の前のヲタクに集中しているし、あとこれは前にも書いたかもしれないが''対応''ではなくてちゃんと''会話''をしようとしてくれる。「こういうようなことを言われた/訊かれたら大体こんな感じで返せばいっか」ではなく、ヲタクをちゃんと人間と認識して、ひとりひとりと''話''をしようとしてくれるのだ。決して上手いとは言えないけど。
待ってこれは優しいな?やっぱりこの上なく優しいわ。ただ少し素直過ぎてたまにポロッと思ったことそのまま口に出してしまってなんでもかんでもニコニコ笑ってくれるわけではないというだけで、伊東さんはめちゃくちゃ優しい男ですね。優しいし仕事に対して誠実。閑話休題。
前からどんどん人がいなくなっていくしBGM小さすぎて会話は筒抜けだし訊こうと思っていたことは前にいた人が先に訊いてしまったしもうどうしたらいい?How do I live on such a field こんなもののために生まれたんじゃないだよと思いながらTwitterを開いては閉じ開いては閉じを繰り返す。胃が痛い。手足が冷たい。上顎がカラカラに渇く。
遂に何も見るものがなくなり、いよいよ吐いちゃうか?となったところで何となくカメラロールを開いた。
この時の私の判断にはスタンディングオベーションを送りたい。あっぱれ。
果たして、カメラロールの中には撮った覚えのない写真が数枚あった。私の介護をしてくれていた友人たちの自撮り(可愛いやつとすごい顔してるやつ)と、友人がポテトを食べている写真だ。
それらを目にした瞬間、何故だか私はこの上なく穏やかな気持ちになった。恐らく見覚えのない写真に驚いて一瞬だけでも緊張が吹っ飛んだことによって、鬱々とした気持ちのリフレッシュができたのだと思う。なんかホッコリしたし、それと同時に私は一つの結論に辿り着いた。
私は、接触イベントで推しと会話がしたいわけでも、何かを訊きたいわけでもなく、ただクスッとでも笑ってもらいたいのだという結論に。
その気づきが此度の戦の勝ち確だったのだ。
周りを見ればキモヲタばかり。しかし私もまた彼らと同じである。神の御前では皆平等とはよく言ったものだと思っていたが、確かにそうなのかもしれない。推しの御前ではヲタクは皆等しくキモいのだ。そこに違いなどない。
ならば変に猫を被るのではなく、何も気にせずキモくあろう。無理をして可愛子ぶっても推しは笑わせられない。
思い出して、あなたはツイッター芸人。俺が一郎 big bro in the house yo.
私の番が近づいてきた。パーテーションのすぐ外に並んで待つ。この時点で中のモニターに映る伊東さんはバッチリ見えてしまったし画面は予想の3倍近くデカくてちょっとビッたが、吹っ切れたツイッター芸人である私に怖いものはもう何もない。口はTOM FORDで塗装してるし。
スタッフさん「次の方どうぞ〜」
きた。地獄の半個室、否フリースタイルダンジョンに足を踏み入れる。こっからは言葉で勝負だ。俺が一郎 big bro in the house yo.
私「こんにちは」
伊東さん「こんにちは」
私「写真集まだ届いていないので中身は見れていないんですが、伊東さんがインスタに載せていたピンクの服のやつが可愛くて好きです」
伊「(何か言ってくれた気がするが聞いていなかったので全く覚えていない。多分伊東さんは自分の写真に興味がないから反応は薄かった)」
私「読み潰してベロベロにする用と額に入れて飾る用と買いました」
伊「ベロベロ…!?そ、それは(なんか言っていたけど覚えていないし私がすぐ遮った)」
私「あとソロラジオ先週から始まりましたね。面白かったです。500回くらい聴きました」
伊「ゴヒャク…!?!?」
私「伊東さんの声が本当に好きで、聴くと最強の気持ちになれるのでずっと聴いています。伊東さんは天才です。最高」←この合間合間でもなんか言おうとしてくれていたし言っていたけど聞いていなかった
伊「(ここも何か言っていたような気がするがよく覚えていない)」
私「ありがとうございました」
伊「ありがとうございました(両手をパタパタ振ってくれる)」
終了
なんも覚えてなさすぎて私本当に参加したっけかなって感じですね。
ハッキリ記憶に残ってるのは「ベロベロ!?」と「ゴヒャク!?」の二言だけだけど身を乗り出して良い反応をしてくれたので楽しかった。嵐のようなキモツイッター芸人として乗り込んだ甲斐があった。
言いたいことを言うだけ言って去っていくくらいならファンレター出しとけって話かもしれないけど、やっぱりこの目で本人のリアクションが見れるのは良いね。
笑ってくれたっていうか動揺させただけのような気もするけど、ショートコント『推しと暴れ豚』ができたので私は満足です。
【イベント後】
変な質問はしなかったし(変なヲタク構文は乱用したけど)、気まずい空気にはならなかったし、伊東さんも本当にクスッとだけど笑ってくれていたし(多分)、我が生涯にあんまり悔いなし。接触イベントに参加する理由が「推しを笑わせたい」というので固まったのは大きな収穫だと思う。これが愛か…の気持ち。一つ言うとしたら、今回は本当に自分が言いたいことだけ言って帰ってきてしまったので、次回はもう少しちゃんと伊東さんの反応を見て臨機応変に言葉を変えていきたい。
了